土の器

宮本牧師のブログ

出ておいでよ

三浦綾子さんの小説『氷点』の主人公、陽子という名は、綾子さんの実の妹の名前を使っていると言われます。陽子さんは綾子さんが13歳のときに、6歳で亡くなっていますが、綾子さんは近所の暗がりに行って、「幽霊でもいいから会いたいよ。陽子ちゃん、出ておいでよ」と言うほど、妹さんの死を悲しんだそうです。 三浦綾子記念文学館特別研究員の森下先生が、この「出ておいでよ」こそ、三浦文学の原点かも知れないと話されている文章を読みました。森下先生は、取材で、綾子さんが教師時代の教え子に会われたそうですが、その方が登校拒否で学校を休んでいると、綾子さんが家に大福餅を持って来てくれて、「学校に出ておいで」と優しく声をかけてくれたという話しをされたそうです。また、綾子さんは自宅で家庭集会を開いていたそうですが、ご近所の方をお誘いするのに、いつも「一人で家にいないで、家庭集会に出ておいでよ」と言っていたそうです。 『氷点』の最後は、陽子が雪の積もる見本林へ行き、睡眠薬を飲んで命を絶とうとする場面ですが、三浦綾子さんは、睡眠薬を飲んで昏睡状態になった陽子を、三日三晩眠らせますが、そこで陽子を可愛がっていた、陽子の母・夏枝の友人、辰子に「ねるだけ、ねむったら早く起きるのよ(まるで「出ておいてでよ」と呼びかけているよう)、全くちがった人生が待っているんだもの」と言わせているのも意味深な感じがします。そして、『続・氷点』では、目を覚ました陽子が、最後、夕日を浴びた流氷が燃えるように見える光景をとおして、キリストの十字架が描かれていきます。と思えば、「出ておいでよ」が三浦文学の原点というのも当を得ているのかも知れませ。 実は聖書も同じようなところがあります。聖書のはじめ、創世記には、「光あれ(光よ、出て来なさい)」と書かれており、罪を犯した人間に対して、神が「どこにいるのか(出て来なさい)」と呼びかけています。そして聖書の終わり、黙示録には、「聖なる都エルサレムが、花嫁のように用意を整えて・・・天から下って来る(出て来る)のを見た」と新しいエルサレムが現れる光景が描かれ、そして、天使が「ここへ来なさい(出て来なさい)。小羊の妻である花嫁を見せてあげよう」と呼びかけるのです。いのちである神の前に出て来ること、これこそ聖書の一貫したメッセージと言えるのではないでしょうか。 今週も大切なことを大切に。