土の器

宮本牧師のブログ

沈黙のなれかし

マタイの福音書は冒頭の系図に続き、イエス・キリストの誕生にまつわる記事を記します。父となるヨセフの立場で書かれているのが、マリアを中心に描いたルカとは異なります。当時のユダヤの習慣では、婚約者は普通1年程度の婚約期間を経て結婚生活に入ることになっていました。しかし、その期間中にマリアが妊娠していることが発覚したのです。マリアがヨセフにその事実を告げたのでしょうか。ヨセフはどんなに落胆したことでしょう。疑おうと思えばどのようにも疑うことができました。まじめで善良なヨセフにとって、それは耐えられないほどの苦悩であり、狂わんばかりの日々を過ごしたにちがいありません。
彼には二つの選択肢がありました。律法の規定に従って、マリアを裏切り者として公衆の前でさらし者にするか、密かに離縁状を与えて、婚約を解消するかのいずれかです。マリアのことを心から愛していたヨセフは、マリアをさらし者にしたくなかったの、密かに縁を切ろうと決心しました。その時です。主の使いが彼の夢に現れて言いました。「ダビデの子ヨセフよ、恐れずにマリアをあなたの妻として迎えなさい。その胎に宿っている子は聖霊によるのです。マリアは男の子を産みます。その名をイエスとつけなさい。この方が自分の民をその罪からお救いになるのです」と。
ヨセフは天使のお告げを信じ、その言葉の通り、マリアを妻として迎えました。そして、その言葉の通り、その子をイエスと名付けたのです。これがヨセフの「沈黙のなれかし」です。ヨセフはひと言もしゃべっていません。けれども、その静かな、大いなる決断と行動を通して、マリアと共に神の協力者となったのです。
聖書は「このすべての出来事は、主が預言者を通して語られたことが成就するためであった」と伝えます。この後、マタイ福音書に16回もくり返される決め台詞のような、とっておきのフレーズは、ヨセフの「なれかし」から始まったのです。私たちも私たちの時代に成就されるべき神の言葉のために、神の協力者とならせていただきましょう。