土の器

宮本牧師のブログ

インクのシミ

宗教改革者マルチン・ルターは、95カ条の提題から始まる論争の中で絶えず聖書に立ち戻ろうしました。4年後の1521年4月、国会での喚問で自説と著作の撤回を強く迫られますが、「たとえ、この町の屋根の瓦ほどの悪魔が、私に襲って来ても私は退かない。聖書に明らかな証拠がある限り、私は決して自分の訴えを取り消さない。我ここに立つ。神我を助けたまえ」と彼は答えています。 その直後、ルターが山の中で騎士の一団に襲われ姿を消します。たちまち、ルターが暗殺されたとのうわさが巷に広まりましたが、ルターを支持するグループの誘拐劇で、彼はしばらくの間、ヴァルトブルク城にかくまわれていたのです。この幽閉期間に、ルターはラテン語訳の聖書を民衆のドイツ語に翻訳しました。彼はわずか10週間で翻訳を完成させたと言われています。現在、ヴァルトブルク城世界遺産となっていますが、ルターが使っていたと言われる部屋もそのまま残されていて、その部屋の壁にインクを撒き散らしたようなシミが残っています。このインクのシミについて、こんなエピソードが残されています。ある夜、彼が疲れ果て意気消沈していると、サタンが長い長い巻物を持って現れました。そこには、ルターが生まれてからその日まで、犯してきた罪が一つ残らず克明に記されてるではありませんか。サタンは彼を訴え、責め、ののしりました。「お前のような罪人が宗教改革などと、大それたことをよくも考えたものだ。お前のような罪人は地獄行きを免れることはできないのだ」と。ルターは一瞬、魂の苦痛を覚え、絶望感を味わいましたが、次の瞬間、信仰を奮い立たせ、サタンに向かってインクの壷を投げつけて、こう言いました。「サタンよ、確かにお前の言う通りかもしれない。しかし、お前に言っておかなくてはならないことがある。その長い巻物の最後に、こう記しておきなさい。『御子イエスの血が、すべての罪から我らを清める』」と。 これこそ、ルターが「我ここに立つ」と語った「ここ」なのではないでしょうか。