岸和田出身の世界的ファッションデザイナー、コシノ三姉妹の母、小篠綾子さんが洗礼を受けた日のことを、次女のジュンコさんが記しています。
「三女のミチコがロンドンに留学のために旅立つ前日のことでした。その日、私たち三人は、向こうでのミチコの無事と活躍をお祈りしようと、教会に行く予定をしていました。車で出掛けようとすると、お母ちゃんが追いかけてきます。「三人そろってどこ行くん?」「いやあ、ちょっと」。私たちが行き先を言わなくても、ふと見るとお母ちゃんはもうちゃっかり車に乗り込んでいます。やがて教会に着きました。『お母ちゃん、私たちは祈ってくるから、車の中で待っててもいいよ。』私がそう言うと、『いや、私も行く』と言うのです。めずらしそうに教会の外観を眺めてから、お母ちゃんは教会の中に入って行きました。その瞬間です。お母ちゃんは涙をぼろぼろこぼして泣きはじめたのです。
『お母ちゃん、どうしたん?』と言っても、ただ声をあげて泣いている。涙など見せたこともない人が、人目も憚らずに泣いている。私たちはただ驚いて、その様子を見守るばかりでした。しばらくするとお母ちゃんは泣きやみ、満面の笑みを浮かべて言ったのです。『ああ、なんやすっきりしたわ。いろいろなことが吹っ切れた気がするわ。』……人には言えない苦しみもあったでしょう。私たちには言わない悲しみも抱えていたでしょう。そんな人生の檻のようなものが、一気に流れ落ちた瞬間だったのだと思います。これをきっかけにして、お母ちゃんも自分から洗礼を受け……まるで人生をリセットしたかのように、生き生きとしはじめたのです。たまたま連れて行った教会。……そこでお母ちゃんは何かと出会ったのかもしれません。」
良き証のゆえに、御名を賛美します。ジュンコさんは遠慮気味に記していますが、その日、綾子さんは神の愛に触れられたのです。
サマースクールの帰り、子どもたちの家に立ち寄り、岸和田方面を通って教会に戻りました。